産婦人科女医、医学博士、性科学者で2児の母。現役産婦人科医として都内の病院で診療を続けながら、メディアでは様々な女性の悩み、妊娠・出産などについての積極的な啓蒙活動を行っている。『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』(メタモル出版)など著書多数。
「ケーキを食べると乳腺が詰まる」って本当?
授乳中は「ケーキを食べると乳腺が詰まる」「お餅を食べるとおっぱいがたくさん出る」という話を耳にしたり、授乳のパンフレットに「糖分や脂分は控えましょう」「動物性脂肪をとると乳腺がつまるので控えましょう」と書いてあったり、しますよね。でも、実は医学的な根拠はない※1のです。鵜呑みにしないでくださいね。
例えば、ケーキを食べたところで、生クリームの乳脂肪がそのまま乳腺に詰まることなどありません。どんな食べ物であっても、脂肪酸やアミノ酸レベルまでものすごく細かく分解されてから小腸で吸収されます。また、乳管は太いので、そんな分子レベルのものはつまりません。つまり、高脂肪の食品をとりすぎて乳管を詰まらせ、乳腺炎の原因になるということはないのです。「クリスマスにケーキを食べて乳腺炎になった」と言ってしまう前に、他の要因も考えないといけません。お客さんが来ていつもより授乳間隔が空いていなかったか?いつもとちがう姿勢で授乳していなかったか?…と、考えられる要因はほかにもたくさんあるはず。ときどき食べるぐらいで「乳腺が詰まる!」なんて気にする必要はありません。「じゃあ週に何個までなら食べていいんですか」なんて聞いてくる人がいますが、それは極端でなければいいのです。
それから、授乳中に乳製品やたまごなどのアレルギーの原因になる食品を食べないようにしても、お子さんのアレルギーを予防できる、ということはありません。だから、ママ自身の健康のことを考えつつ、好きなものをバランスよく食べてくださいね。
※1桶谷桐子「母乳育児支援ブック」
みんなが気になる「コレってどうなの?」
- 食べ物が原因でないなら、
なぜ乳腺炎になってしまうのですか? -
乳腺炎には、細菌感染を起こして炎症が起こる「感染症」と、なんらかの原因で乳管が詰まって乳房で炎症が起こる「非感染症」の2つがありますが、「非感染症」の原因としては以下のようなものが挙げられます。
- ① 「赤ちゃんの飲む量<母乳の分泌量」になって、乳房内に大量の母乳がとどまること
- ② 下着やだっこひもなどによる締め付けや圧迫
- ③ 授乳姿勢が不適切であること
- ④ お母さんの疲れや肩こり
最も多いのが①なので、乳腺炎の予防するには、正しい姿勢で頻繁に授乳することが大切です。
- 乳腺炎になってしまったら、
どうしたらいいのでしょうか?
-
赤ちゃんは先にあげる方の乳房の母乳をしっかり飲むので、乳腺炎が起こっている側から飲ませてください。乳腺炎のときの母乳はすこししょっぱくなると言われているので、赤ちゃんが飲むのを嫌がるかもしれません※2。その場合は、お腹がすいてから飲ませる、うとうとしているときに飲ませるなどの工夫をして、それでもダメなら搾乳しましょう。頻繁に授乳してもよくならなかったり、悪化したりする場合は、産婦人科を受診しましょう。
※2 水野克己、水野紀子「母乳育児支援講座」南山堂