産婦人科女医、医学博士、性科学者で2児の母。現役産婦人科医として都内の病院で診療を続けながら、メディアでは様々な女性の悩み、妊娠・出産などについての積極的な啓蒙活動を行っている。『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』(メタモル出版)など著書多数。
やっぱり母乳で育てた方がいいの?
赤ちゃんを育てるには、母乳だけを与える「完母」、粉ミルクだけを与える「完ミ」、母乳と粉ミルクを併用する「混合」という選択肢がありますが、近年は母乳育児が推奨されることが多いですね。これは、母乳が赤ちゃんにとって完全栄養食品で、およそ生後5〜6ヵ月までに必要な栄養素がすべて入っているから。※1また、授乳すると出るオキシトシンというホルモンの働きで子宮が収縮して早く元に戻る※2、などママにとってのメリットもあります。
でも、「母乳こそ愛情の証」みたいに精神的な部分が強調されることも多く、「やっぱり母乳じゃなきゃ」という想いにとらわれてしまう方が多いような気がしますが、ミルクを与えることを極端に恐れてしまうことのほうが、ママの精神状態が不安定になり、結果として赤ちゃんにもつらい思いをさせかねない、と私は考えています。「適切に支援すれば9割の人は母乳でいける※3」と言われていますが、これはスパルタでがんばった場合の9割。そのスパルタ具合がママを追い詰めるのなら、本末転倒なんじゃないでしょうか。
初乳(生後1〜2日)に含まれる母乳の成分が赤ちゃんの免疫を強化することは知られています。だから最初のうちはできるだけ母乳をあげる方がいいですよね。でも、粉ミルクが「絶対悪」ではないのです。母乳がでないときは粉ミルクを足してあげて、そのぶんママがゆっくり休めたら母乳も出やすくなるかもしれません。実際に、眠るとプロラクチンというホルモンが出て母乳が出やすくなります※4から、ママが良く眠ることも大事なのです。
無理なく母乳をあげられるのならば、もちろんそれに越したことはありません。でもあまりに大変ならば混合にしてもいいし、完ミにしたっていいのです。「母乳で育てられないなんて母親失格だ」と暗い顔をしているよりも、笑顔で子育てできることのほうが大切ではないでしょうか。
※1 2001 World Health Organization, Geneva WHO/FCH/CAH/01.23, and WHO/NHD/01.08
※2 水野克己. 2016 Sep; 母乳と育児とオキシトシン
※3 厚生労働省「平成27年度 乳幼児栄養調査」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134208.html
※4桶谷桐子「母乳育児支援ブック」
みんなが気になる「コレってどうなの?」
- 粉ミルクを足すと、母乳が出なくなりそうで、
怖くて足せません。 -
混合栄養を続けるコツは、赤ちゃんのお腹が減っている時に、しっかりと乳首を吸ってもらってから粉ミルクを与えること。赤ちゃんが乳首をうまく吸えないようなら、搾乳してもいいでしょう。
というのも、お母さんの体内で母乳を作ったり、作る能力を維持したりするのに必要なホルモンは、乳首に刺激(赤ちゃんが乳首を吸ったり、搾乳したりする刺激)が加わることによって分泌されるからです※5。先に粉ミルクを与えてしまうと、赤ちゃんのお腹がいっぱいになってしまい、お母さんの乳首を吸う回数が減ってしまいがち。そうなると、母乳を作るためのホルモンが充分分泌されず、母乳の分泌量もなかなか増えていきません。ミルクを足す場合も、まずは乳首を吸ってもらいましょう!
※5 水野克己、水野紀子「母乳育児支援講座」南山堂